方法より実践

便利な勉強法はない

 テレビやインターネットなどでは、「〇〇は体に良い」とか「毎日〇〇を食べるべき」など、食と健康に関する話題がたくさん取り上げられています。「〇〇ダイエット」と称して特定の食べ物が紹介されると、翌日その食品がスーパーなどで売り切れになるということもあるようです。
 しかし、サイエンスライターの佐藤健太郎氏は、著書「化学物質はなぜ嫌われるのか」の中で次のように述べています。
 《もし食べるだけで美しく健康になれる、まるで魔法のような食品があるのなら、筆者もここでそれを紹介して本の売り上げを大いに伸ばしたいところです。が、残念ながらそんなに都合のいい食べ物はこの世に存在しません。(中略)結局健康になれる食事は何かと問われたら、脂肪や塩分を取りすぎないこと、野菜や果物をたくさん食べること、バランスよくいろいろなものを食べること、という嫌になるほど平凡な答えしかないのです。》
 この話は、そのまま勉強にも当てはまると思います。「食と健康」を「勉強と成績」に置き換えてみればいいわけです。
 これまで東ジャーナルでも、「上手な勉強法」(2017.9月号)、「この時期にやっておくべき勉強」(2018.1月号)、「努力を続けるには、意志より工夫が大切」(2018.10月号)、「脳科学から見た効果的な勉強法」(2018.12月号)、「『頭がいい』と言われる人の習慣」(2020.9月号)など、さまざまな角度から勉強の方法について解説してきました。これらの記事では、勉強を効果的に進めるための具体的なアドバイスをいくつか紹介していますが、そのどれもが正攻法(佐藤健太郎氏のように言えば「嫌になるほど平凡なやり方」)であり、決して「〇〇だけやれば簡単に成績が上がります」というような話はありません。

方法ばかり探して行動しない人

 学生が勉強や成績で悩むのと同じように、大人もスキルアップや仕事のやり方などについて真面目に考えたり悩んだりしている人がたくさんいます。書店に行くと、たいてい「自己啓発本」というコーナーがあり、中にはテレビなどで紹介されるほど人気のある本も生まれているようです。しかし、そのような本をたくさん読んでも、ただ読むだけで満足してしまい、学んだ方法を実行に移さない人がいます。そういう人を「ノウハウコレクター」と呼ぶらしいのですが、それではいつまでたっても実力が伸びません。
 勉強でも同じことが言えます。勉強のやり方、暗記の方法、計画の立て方などを質問したり、「成績を上げる方法」や「〇〇勉強法」などという本を読み漁ったりと、情報を集めることには情熱を燃やす人がいます。もちろんそのこと自体は悪いことではありません。しかし、勉強方法に関する知識が増えても、それらを実行に移さなければ、当然成績も上がりません。どうして彼らは方法を知ったのに動き始めないのでしょうか。それは、自分が努力しなくても成績が上がるようなもっと楽な方法を求めているからです。つまり、せっかく効果的な勉強方法を教えてもらっても、「いや、そうじゃなくて、もっと手軽に成績が上がる方法を知りたいんだ」と考えて、いつまでも探し続けるのです。しかし、繰り返しますが、楽をして効果が上がるような便利な勉強法はありません。

まず始めることが大切

 小説家の水野敬也氏の大ヒット本「夢をかなえるゾウ」は、ガネーシャというゾウの姿の神様が、なぜか関西弁で成功の秘訣を伝授するというコミカルで読みやすい自己啓発本です。その中に、今回の話にぴったりなこんなセリフがあります。
 《みんな今日から頑張って変わろう思うねん。でも、思うだけで実際には動けへんねん。なんでか分かるか?楽やからや。今日から変わるんだって決めて、めっちゃ頑張ってる未来の自分を想像するの楽やろ。だってそん時は想像しとるだけで、実際にはぜんぜん頑張ってへんのやから。本気で変わろ思たら、意識や気持ちやなくて、具体的な行動を変えなあかんいうことや。》
 勉強のやり方をあれこれ探す前に、まず下手でもいいから実際に勉強を始めましょう。その人に合うやり方など、細かく言えば結局1人1人違うわけで、それは勉強を始めてから徐々に自分用にカスタマイズしていくしかありません。試行錯誤しながら、自分にとって最も効果的な勉強法を作っていきましょう。